No.32 遺訓第34条 作略・奇計・陰謀は戦時においてなすべし  2022615

 

■遺訓第34条 

作略は平日致さぬものぞ。作略を以てやりたる事は、其の跡を見れば善からざること判然にして、必ず悔い有る也。唯戦に臨みて作略無くばあるべからず

併し平日作略を用れば、戦に臨みて作略は出来ぬものぞ。孔明は平日作略を致さぬゆゑ、あの通り奇計を行はれたるぞ。

予嘗て東京を引きし時、弟へ向ひ、是迄少しも作略をやりたる事有らぬゆゑ、跡は聊か濁るまじ、夫れだけは見れと申せしとぞ。

 

■遺訓第35  

人を籠絡して陰に事を謀る者は、好し其の事を成し得るとも、慧眼より之れを見れば、醜状著るしきぞ。人に推すに公平至誠を以てせよ。公平ならざれば英雄の心は決して攬られぬもの也。

 

□遺訓第34条と第35条の解釈

西郷は、中国・宋の時代の陳龍川の『酌古論』を沖永良部に持参し愛読したといわれる。陳龍川は、『三国志』に登場する英雄と知者をつぎのように区別する。

 劉備につかえた諸葛孔明は真の<英雄>である。大義 公平 至誠 忠節、良心の知恵。

 曹操につかえた司馬仲達はただの<知者>にすぎない。術略 残忍 姦計、欲得の知恵。

天才軍師といわれる諸葛孔明は、赤壁の戦い、天下三分の計など、『三国志』や『三国志演義』で活躍する英雄として有名。

<作略>とは、だます、ごまかす、詐欺、捏造、悪知恵、でっち上げ、・・・策略、謀略、陰謀、智謀、詐謀・・・陽動作戦、偽装、奇計、誘導、自作自演、スパイ活動、・・・・・・・・フェイク、情報操作、プロパガンダ・・・・権力闘争。

そのような<作略は平日致さぬものぞ>、ただし<戦に臨みて作略無くばあるべからず>と西郷はいう。

 

 西郷は明治維新において、倒幕運動・政権転覆・武力革命の軍師であり、参謀であり、指揮官であった。多くの日本人が、大西郷を明治維新の「英雄」とあおぐ。

その西郷が、<自分はこれまで少しも作略をやりたる事なし>という。これをどう解釈するか。

 

「事大小と無く、正道を踏み至誠を推し、一時の詐謀を用う可からず。」(遺訓第7)について、『9.遺訓第7条 明治維新は『朝廷』を抱き込む謀略合戦 2018915を参照。

 

 20226月、ウクライナ戦争の国際政治状況。主権国家の国益至上を使命とする国家元首とそのまわりに群がる戦争関係者たち。それらの私欲と国欲のどす黒い<作略>の渦巻き。

その陰謀群の全貌は、後世において一部しか明らかにならぬ。ほとんどは闇の領域。

 

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