4.3 高校における倫理教育         2014127日 改

201212月の衆議院議員選挙において、自民党の政権公約案のなかにつぎの文言がある。自民党総裁の安倍普三が、日教組を左翼思想集団として糾弾していることの反映だと思われ。

「伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛する」教科書になるように教科書検定制度を見直す。

「規範意識や社会のルール、マナーなどを学ぶ道徳教育や消費者教育などの推進を図るため、高校で新科目「公共」を設置」

 

では、これまでの高校教育において、「規範意識や社会のルール、マナー」に関してどのような「徳」教育がなされているのであろうか。

娘が通っていた学校で使っていた「新しい資料 倫理」(実教出版、2000年ごろ)という教科書が手元にある。最初のページにつぎのような文言がある。

「「倫理」の授業では、古今東西のさまざまな思想家の考え方や生き方について学習します。「倫理」では青年期の課題や現代社会の特質についても学習します。これらをふまえたうえで、さらに思想家たちの考え方や生き方について理解を深め、皆さんが自分自身の考え方や生き方を形成していくうえでの糧になるように執筆者は願っています。」

 

教科書の内容は、おおきく①人間、②現代社会、③日本人という構成になっている。以下に目次を引用することによって、「倫理」の授業の様子を想像することにする。

1編 青年期と人間の探求

1章 青年期の課題と自己形成

第1節   人間性の特質 -人間の定義と人間らしさ

第2節   適応と個性の形成 -欲求と適応、個性と性格

第3節   青年期がもつ意義と課題 -ライフサイクル、悩み、友情・恋愛、主体性

第4節   現代社会における青年の生き方 -学歴社会、職業選択、生きがい

第2章 人間としての自覚

第1節 古代ギリシャの思想 -神話の世界、自然哲学者たち、ソフィスト、ソクラテス、プラトン、アリストテレス、ヘレニズムの思想

第2節 キリスト教 -ユダヤ教、イエス、パウロ、アウグスティヌス、スコラ哲学

第3節 イスラム教 -ムハマンド

第4節 仏教 -仏陀、大乗仏教 

   第5節 儒教と老荘思想 -孔子、孟子、荀子、朱子、王陽明、老子、荘氏

第2編 現代社会と倫理

1章 現代社会の特質と人間

第1節    現代の人間像 -組織に生きる人間の課題  

第2節    現代社会の特質 -核家族化、高齢化、情報化、国際化

第2章 現代社会を生きる倫理

第1節    近代の誕生 -ミランドラ、エラスムス、ルター、カルヴァン、モンテーニュ、パスカル 

第2節    合理的精神 -ベーコン、デカルト

第3節    自然法と啓蒙思想 -ホッブス、ロック、ルソー

第4節    カントとドイツ観念論(理想主義)-カント、ヘーゲル

第5節    功利主義 -ベンサム、ミル

第6節    社会主義 -ユートピア社会主義、マルクス、エンゲルス、レーニン、毛沢東、社会主義の修正と展開

第7節    実存主義 -キルケゴール、ニーチェ、ヤスパース、ハイデガー、サルトル

第8節    プラグラティズム -パース、ジェームズ、デューイ

第9節    現代のヒューマニズム -トルストイ、ガンディー、ラッセル、シュバイツアー、ヴェイユ、マザー=テレサ、キング牧師

第3編 国際化と日本人としての自覚

1章 日本の風土と日本人の考え方 -「風土」と古代日本人の考え方

第2章 外来思想の受容と日本の伝統

第1節 仏教 -聖徳太子、最澄、空海、法然、親鸞、道元、日蓮

第2節 江戸時代の思想 -藤原正か、林羅山、中江藤樹、伊藤仁斎、荻生徂徠、本居宣長、石田梅岩、安藤昌益、二宮尊徳、佐久間象山、吉田松陰

第3節 西洋思想の影響と日本の近代思想 -福沢諭吉、中江兆民、植木枝盛、幸徳秋水、吉野作造、夏目漱石、森鴎外、内村鑑三、西田幾多郎、和辻哲郎、鈴木大拙、柳田國男、三木清、岡倉天心

第3章 世界のなかの日本人

第1節   人類の福祉と国際平和の確立 -永遠平和の思想、暴力と非暴力、「荒れ野の40年」

第2節   地球と人類社会 -エコロジーの思想

第3節   国際社会における日本の役割 -国際貢献とはなにか

「皆さんが自分自身の考え方や生き方を形成していくうえでの糧になるように執筆者は願っています。」

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結局は、生徒個人の自由選択に任せられる。昔の偉人たちの言説を陳列して、知識を暗記させることが、人格形成の「修心」とはおもえない。それでよろしいのだろうか。

次回は、倫理学、応用倫理学、実践哲学と称される「学問」で何が語られているのか。次回の4.4では、「職業的倫理学者」の肩書をもつ人種は、何を言って食って生きているのかを覗いてみる。

以上  4.2   4.4   4.1  人生論トップへ